
「麻痺している手足が動かしにくい」「しびれが残っている」「リハビリを続けているのに変化が頭打ち」——こうした悩みを持つ方・ご家族は少なくありません。そこで気になるのが、はり治療(鍼治療)が“神経の伝達”に関わるのか、そして麻痺の改善に役立つ可能性があるのかという点です。
結論から言うと、はり治療は切れた神経をつなぐ治療ではありません。ですが研究では、神経が働きやすい環境を整える反応(血流・興奮の調整・脳の可塑性への関与など)が示唆されており、麻痺や動かしにくさの“回復を支える補助的ケアとして検討されることがあります。※効果には個人差があり、改善を保証するものではありません。
そもそも「神経の伝達が悪い」とは何が起きている?
神経の働きは単純に「オン/オフ」ではありません。
麻痺やしびれがある状態でも、神経が完全に途絶しているケースばかりではなく、
- 信号(神経インパルス)が弱い/届きにくい
- 周囲組織の緊張やむくみで“通り道”が狭い
- 炎症や過敏で誤作動が起きている
- 脳側の再学習(可塑性)が追いついていない
といった伝達しにくい条件が重なっていることが多い、と考えられます。
はり治療が「神経の伝達」に関わると考えられている理由
1)血流と代謝環境を整え、伝達しやすい土台を作る
神経は血流依存性が高く、酸素・栄養が不足すると働きが落ちやすい組織です。はり刺激は局所反応として血流変化や筋緊張の緩和を通じ、神経周囲の環境を整える方向に働く可能性があります。
末梢神経障害の領域では、神経伝導速度(NCV)などの客観指標が改善したとする研究レビューも報告されています(糖尿病性末梢神経障害など)。
2)過剰な筋緊張・こわばりを調整し、神経の“通り道”を確保する
麻痺がある方では、筋肉が弱いだけでなくつっぱり(痙縮)やこわばりが強くなることがあります。すると、関節が動かしにくくなり、結果として動作学習(リハビリ)の質も下がりやすい。
痙縮を含む脳卒中後の運動障害に対して、鍼が補助的に役立つ可能性を示したレビューもありますが、同時に研究の質やバイアスの課題も指摘されています。
3)“感覚入力”を増やして、脳‐身体の再学習を助ける
麻痺の回復では、筋力だけでなく脳が「その手足をどう動かすか」を再学習する過程が重要です。はり刺激は皮膚・筋・深部受容器への刺激となり、脳へ感覚情報(入力)を増やす一手段になり得ます。
脳卒中リハビリ領域では、鍼が脳の可塑性(ネットワーク調整)に関与しうることを示唆するレビューもあります。
4)神経栄養因子(BDNFなど)との関連が示唆されている
動物研究や基礎研究では、電気鍼などがBDNFなど神経の回復・適応に関与する因子に関連する可能性が報告されています。ただし、基礎研究の結果がそのまま人に当てはまるとは限らないため、臨床応用は慎重に解釈が必要です。
麻痺している部分の改善に役立つのか?
ここで大切なのは、「改善」をどう定義するかです。
はり治療は、麻痺を完全に消す・元通りにすると保証できるものではありません。一方で、臨床では次のような形で使いやすさが上がるケースが語られることがあります。
- つっぱりが軽く感じ、関節が動かしやすい
- 動作のきっかけがつかみやすい
- 痛み・だるさが減り、リハビリの質が上がる
- 歩行・バランスなど一部機能で変化を感じる
実際、脳卒中後の運動機能や歩行に関して、鍼の効果を検討したメタ分析では特定の歩行パラメータが改善しうる一方、研究の質の課題も述べられています。
また、全体としては「鍼がリハビリに有益かもしれないが、質の高い試験が必要」とする整理もあります。
効果を出しやすい使い方:はり治療×リハビリの役割分担
麻痺の回復では、よくある落とし穴が「施術だけで何とかしようとする」ことです。現実的には、
- はり治療:血流・緊張・感覚入力など“回復しやすい状態”を作る
- リハビリ:その状態で“動作を再学習”する
という併用が、考え方として分かりやすいです。
はり治療は、リハビリの前後で入れることで「動かしやすい」「疲れにくい」などを狙う設計がされることもあります(※状態により個別判断)。
どんな人が検討しやすい?
次のような方は、補助的ケアとして相談されることが多い領域です。
- しびれ・つっぱり・痛みが強く、リハビリが進みにくい
- 動かしにくさはあるが、完全麻痺ではなく“残存機能”がある
- 回復期~慢性期で、伸びしろを探している
- 自律神経の乱れ(睡眠・疲労)も同時にケアしたい
※急性期の状態や重い合併症がある場合は、医療機関での管理が優先です。
よくある質問
Q1. はり治療で神経は「再生」しますか?
一般に、はり治療は神経を直接再生させる医療行為ではありません。ただし研究では、血流や神経栄養因子など、回復を支える環境要因への関与が示唆されています。
Q2. 麻痺はどのくらいで変化しますか?
個人差が大きく、回復ステージ・麻痺の程度・リハビリ量で変わります。短期で断定せず、数回での反応+一定期間の経過で評価するのが現実的です。
Q3. 医師の治療やリハビリと併用できますか?
多くの方が併用しています。鍼は代替ではなく補助として考えるのが安全です(主治医に相談できる状況なら共有も推奨)。
まとめ:はり治療は「伝達を良くする魔法」ではなく、伝わりやすい状態を整える選択肢
- はり治療は、切れた神経をつなぐ治療ではない
- しかし研究では、神経伝導(NCV)や末梢神経症状での改善、脳卒中後の機能回復に関して一定の有望性が示される領域がある
- 一方で、脳卒中領域は研究の質の課題が残り、過度な断定はできない
- 現実的には、血流・緊張・感覚入力・可塑性など「回復の土台づくり」として、リハビリと併用する設計が重要
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